モザイクタイルの家:ピカシェットの家(フランス)

今回はモザイクタイルで装飾されたかわいい家をご紹介します。パリのモンパルナス駅から南西に90km、電車で約1時間、シャルトルという街にある「ピカシェットの家(=madison Picassiette)」を訪れました。

シャルトルといえば、ノートルダム大聖堂が世界遺産に登録され、内部の壮大なステンドグラスが非常に有名です。その大聖堂からは徒歩で約30分。シャルトルの駅や大聖堂側からのバスで約10分の閑静な住宅街にあります。

長屋のような奥行きのある長方形の敷地で、入り口はうっかりすると通り過ぎてしまうほど狭いです。

全体の見取り図はこんな感じ。入ってすぐが母屋でその奥に礼拝堂、中庭を挟んで夏の家という名前の離れ、その奥が庭となっています。

さて、このお宅は有名な建築家が作ったわけではありません。この家の主、レイモン・イシドールさん(1900-1964)が土地を買い、自力で家を建て、拾ってきた廃材の陶器やガラスのかけらをかき集めてモザイク状に装飾した手作りの家なのです。「ピカシエットの家」とは通称で、ピカシェットとはつまみ食いをする、拾って集める、などの意味があるそうです。

レイモンさんは美術の勉強や特別な技術を学ぶこともなく独学で一から作り上げました。

壁から床から家具、キッチン、柱や配管に至るまで、とにかくモザイク尽くしでとってもかわいい家なので、今回は冒頭から文章とは関係なく、ガンガン写真を挿入していきます(笑)

レイモンさんは1929年に土地を買い、まず家を建てました。その翌年の1930年から奥さんと息子さんと一緒に住み始め、翌1931年からモザイク装飾を始めました。

実際に生活を送りながらコツコツと装飾していたようで、64歳で亡くなる前日までの33年間、モザイク装飾に没頭していたそうで、その装飾は未完成のまま現在に至っています。この家は、1982年に歴史的価値のある建造物として国の指定を受け、観光地としても整備されました。レイモンさんが亡くなって18年経ってからのことです。

レイモンさんは敬虔なクリスチャンだったそうで、家の至るところにシャルトルの大聖堂の絵が描かれ、外壁にはレリーフが施され、中庭には彼が愛したシャルトルの街並みと、家から見える大聖堂と同じ角度で作られた「小さな大聖堂」がちょこんと飾られていました。

制作活動の原動力となったのは奥さんを喜ばせるためだったとか。なんて幸せな奥さまなんでしょう。壁に施された女性の肖像はすべて奥さまだとか。決して裕福とは言えない生活だったそうで、晩年は近所の墓地の墓守を仕事にしながら、モザイク装飾を続けていたそうです。

現在ご夫婦は近くの墓地に眠っているそうで、そこからも大聖堂を見渡すことができるそうですよ。

たとえ特別な芸術教育を受けていなくても、素晴らしいものはすばらしいですよね。レイモンさんの家は見ていてとても楽しいし、遊び心が随所に感じられ、クスッと笑ってしまう部分もたくさんあります。それでいて細部までこだわり作り込まれており、特に礼拝堂は、入った瞬間から静寂の空間が広がっていました。

一緒に行った妹家族の甥っ子姪っ子もいつもは興奮して走り回っているのに、この時ばかりは興味深々、じーっとモザイクを眺めたり触ったりしていました。

レイモンさんの作品は子供も大人も虜にするとっても魅力的な家でした。

きっと彼自身が毎日楽しんで作っていたから、そして奥さまのために愛に溢れたその気持ちが込もっているから、それらがこの素敵なモザイク装飾に溢れ出たんだと思います。

これこそが創作の原点ですよね。自分の心の中にある大切な思いや感情を素直に表現し、それをカタチにする。できそうで簡単にできるものではないですが、今回私もレイモンさんに大いに刺激を受けました。<KY>

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