皆さんにご提供しているタイル絵付けの材料は全てスペインから輸入しています。バレンシアのメーカーからバルセロナを経由して日本まで、長い道のりを約1ヶ月かけて船で運ばれて来るんですよ。今回はそんな材料達が作られてから日本に到着するまでの長い長い道のりをご紹介しますね。<YF>
まずはタイルや釉薬(うわぐすり)と素焼き陶器の発注。ご存知の通りテキトーなスペイン人、私がこの仕事を始めて今年で12年になりますが、最近やっと注文通りの材料が届くようになりました。初めは言葉も出ない程ヒドかった・・・なんだこりゃ?って見たことも無いような形の壺がわんさか入ってたり、あれ?って目を疑うようなちっちゃいタイルが入ってたり・・・。
メーカーの担当者も「日本人はうるさいから注意しなきゃ」ってようやくわかってきたらしく、スペイン人を訓練するのに12年もかかったわけです・・ま、これはおいといて。注文してからタイルや陶器が出来上るまでに約2ヶ月。これがスペインの陶器メーカー、タイルメーカーの倉庫です。
倉庫から出た材料はバレンシアからバルセロナまで陸送され、バルセロナの港から船積みされます。バルセロナから東京までは東南アジアを経由して約1ヶ月、その経由国によって日本に到着した時に箱に付いている臭いが違うことに最近気付きました。また国によっては扱いが荒いのか、到着したタイルが粉々に割れていたこともあります。こういう時の為に保険をかけているのにいざ保険金を請求すると,船会社は「メーカーの梱包があまいんだ!」メーカーは「船会社の扱いが悪いんだ!」と責任の押し付け合いで未だ解決せず、もう1年も前の話なのに未だ保険金が下りない・・その後保険をかけるのはやめました。最初からこうなるだろうって予感はしてたけど。
1ヶ月間の船旅を終えて日本に到着した荷物はまず保税倉庫へ運ばれます。私にはこのタイミングで船会社からArrival notice(貨物到着通知)が送られて来て、それを持ってバレンシアから日本の倉庫までの手間賃と運送料の支払いに船会社に行きます。個人で輸入した経験のある方はご存知と思いますが、この全ての支払いに占める実際の船の運送料って15%くらい。あとはほとんど現地の陸送と船に載せるまでの手間賃です。国や物によっても違うと思いますけどね。
保税倉庫に無料で預かってもらえる期間は1週間。それを過ぎると保管料がかかるのでタイミングを逃さないよう今度は通関に行きます。東京に荷物が届く場合は大井埠頭にある東京税関へ、レトロな感じの大井税関は周りに何も無く、海からの風がビュンビュン吹いている寒いところ。歩いている人はほとんどいません。今でこそ輸入申告書類はダウンロードできるようになったけど、10年前はこの税関にある食堂の“おっちゃん”がなぜか申告書類を売っていました。おっちゃんがそばを茹でながら申告書類も売っている・・・今でも理解しがたい。
私が輸入しているのはタイルや陶器、筆や藤の籠類で、この中でダントツに関税が高いのがカゴ。国内産業保護のためとはいえここでカゴの価格がぐっと上がっちゃいます。生徒の皆さんごめんなさい・・。陶器を食器として使う場合は輸入を始める前に国内の食器基準に適合しているかどうかのテストを検査所に依頼し、その結果を税関に提出する必要もあります、粘土を輸入する場合は植物検疫も必要。
無事通関作業を終了したら、ここでやっと倉庫から荷物が受け取れます。今はもう自分でトラックを運転して取りに行くことはやめましたが、自分で行ってた時のびっくり話をお話しすると、この大井埠頭周辺の道路はまさしく“無法地帯”。でっかいトレーラーの後ろを走っていた時、突然前の車が止まった。当然信号待ちだと思って待ってたのに数分経ってもじーっと動かない。あれ?って思って周りを見渡すと私の後ろには誰もいない、おや?って思ってトレーラーを抜かしたら信号なんてありゃしない、突然止まってそこで荷待ちをし始めたんです。ハザードも出さず突然止まる。それも一番左車線ならわかるけど、私が走っていたのは一番右の車線です・・・でもこれはここでは当たり前のことみたい。私も学習して今度は左も右も避けて真ん中車線だけ走るようにしたのに真ん中でも止まるヤツがいる。もちろん前には荷待ちの車が列を作っているんですけどね。そんなこんなで自分で行くのはやめました。今は運送会社のドライバーを無法地帯へ派遣しています。
そして保税倉庫から教室の倉庫へ到着するタイルや陶器、遠路はるばるバレンシアから私の元へ到着した材料と対面するとき、生き物ではないけれど「よく来たね」と声を掛けたくなる瞬間です。無事に到着してくれた材料のホコリを払いながら「大事に使っていかなきゃ」といつも思います。皆さんも今度タイルを見たらこんな旅をしながらはるばるバレンシアから到着したことをちょっと思い出して下さいね。