ロダンの「接吻」

みなさん、ロダンの「接吻」という作品をご存知ですか?

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ロダン作品は「考える人」の方が良く知られているかもしれませんね。

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2008年に初めてフランスはパリのロダン美術館で「接吻」の実物を見て、心が揺さ振られるほど感動しました。今回はこの「接吻」について書きたいと思います。

恥ずかしながら大学の時に西洋美術史を専攻し、当時学芸員資格を取得するための様々な講義を受けていました。その授業のひとつ、博物館学という授業の中で、実際に学芸員になったつもりで展覧会の企画展を計画してみる、という課題がありました。

3~4人のグループでひとつの企画展を練ることになり、私達は「The Kiss展」を提案しました。たくさんの西洋美術作品の中で「キス(日本名で接吻)」と題名がついている作品を集めて展示する、オープニングパーティは2月14日のバレンタインデーで、などとかなり具体的に企画したことを今でもはっきりと覚えています。

収集作品は、クリムトやムンクの接吻、シャガールやピカソの同題名作品など。(もちろんすべて仮想の世界です)

この時ロダンの「接吻」の大理石バージョンを初めてカタログで見て、何て優美で素敵な作品なんだろう、と思った記憶があります。それまでは美術の教科書でブロンズ像の「接吻」しか見たことがなかったのです。

ロダン美術館で冒頭の大理石の「接吻」を見た時にこの企画展のことを思い出し、13年越しでやっと対面できた嬉しさで心臓がバクバクになってしまいました。しかも360度ぐるっと一周回って鑑賞できるのです。それもかなりの至近距離で保護ガラスも無しです。見る角度によって人物の表情や筋肉の浮き上がりなどがまったく違うように感じられました。

さらにこの大理石で作る前の段階の石膏像までありました。

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さてその2年後。2010年にロンドンのTATE(旧テートギャラリー)で「接吻」に再会します。

この時は感動というより驚きでした。常設作品として展示されていたので、フランスから借りてきたわけではなく、TATEの所蔵品として展示されていたのです。

「え?接吻って2体あるの?」とビックリしたことをよく覚えています。(その後世界に3体あることを知りました)写真は撮った気がしていたのですが見当たりませんでした。パリのロダン美術館の自然光が差し込む明るい展示に比べ、TATEのものはかなり薄暗い部屋にライトが当てられた展示だったと記憶しています。フラッシュは禁止なので、写真に収めても綺麗に撮れないだろうと思って写真を撮らなかったのかもしれません。

こちらはその時に買った絵はがきです。左がパリのロダン美術館のもの、右がロンドンのTATEのもの。台座の形がちょっと違うように見えますが、正真正銘、TATEのものもロダンがアメリカ人美術コレクターの依頼で作ったものです。

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そして時は経て2018年。なんとこのTATEの「接吻」が横浜美術館にやってきたのです。その企画展の名前は「NUDE(ヌード)」。

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うーむ、そう来たか!確かに「接吻」も裸だよな。。。ヌードがテーマならかなりたくさんの作品が当てはまるし。現役バリバリの学芸員が企画するとこうも素晴らしい企画展になるのか、と大学生の稚拙な企てを恥じるのでした。

この横浜美術館での写真もないのですが、その理由はハッキリしています。それはものすごい人だかりだったから。それもそのはず、「接吻」は日本初公開だったのでした。

やはり360度ぐるっと回遊して見られる展示だったので、どの角度でカメラを構えても人だかりが一緒に写ってしまいます。なので写真は諦めました。

それにしてもこの10年の間に3度も出会えるとは思ってもみませんでした。

そして作品に込められた意味を知ると見方が全然変わってくることも。

もともとは「地獄の門」という作品の一部として作られたものでした。

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ちなみに「考える人」もこの地獄の門の作品の一部です。地獄に落ちていく人々を天から眺めているのがこの像なのです。なので「考える人」という名前はロダンがつけたものではなく、後に独立した作品として世に出した時にそれを見た人がこの作品名をつけたのでした。

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この「地獄の門」の写真は東京上野の国立西洋美術館の前庭です。

ここにはロダン美術館同様、「考える人」のブロンズ像もあるのです。

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しかも庭なので入館料はかかりません。その他にもロダンの作品が3点も展示されていますので、興味のある方は行ってみてください。その時は是非ミュージアムショップにも。ここもタダで入れます。ここでは普通の本屋ではなかなか入手できないマニアックな美術書や、国立西洋美術館の壮大なコレクションのカタログなども販売しています。(こんなにすごい作品を隠し持ってるの?出し惜しみしてない?)など心の奥深くで独り言を言ったりして、小一時間は時間を潰せます(笑)

話題が逸れてしまいました。本題に戻ります。

「接吻」も後からついた作品名で、元は「フランチェスカ・ダ・リミニ」という名前でした。これはダンテの「神曲」に登場するパオロとフランチェスカの悲恋がモチーフとなっています。パオロはフランチェスカの夫の弟なのです。このことで夫の逆鱗に触れて二人は夫によって殺されてしまいます。ロダンは夫によって地獄に落とされた二人を「地獄の門」に登場させたのでした。「地獄の門」はフランス政府の要請で新しい装飾美術館の扉のレリーフになる予定だったのですが、その美術館の計画が途中で頓挫し、ロダンのこの作品も未完成のまま終わったのです。そしてのちにそれぞれのパーツが独立した作品として一般人の目に触れるようになったのです。

この事実を知った上で改めて「接吻」を見てみると、かなり印象が変わります。大学生の頃はこの意味を知らなかったので、単純に素敵な作品だなーと思ったのでした。

さて、最後にロダンの意外な才能をご紹介します。パリのロダン美術館にはロダンが描いたたくさんの素描や水彩画が展示されています。

彫刻だけじゃなく、絵もものすごく上手いのです。当然といえば当然ですが。。。

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彫刻は無骨なものが多いのですが、こんなに柔らかく繊細なタッチでスケッチするんだー、やっぱり偉大な芸術家は違うよなー、とロダンの別の一面を垣間見たのでした。

パリに行く機会がある方は是非ロダン美術館を訪れてみてください。

上野の国立西洋美術館同様、庭園にも素晴らしい作品があり、庭の草花もよく手入れされていて散歩するだけでも素敵な空間ですよ。<KY>

スペインタイルアート工房HP

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